愛の言霊〜Spiritual Message〜/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

愛の言霊〜Spiritual Message〜

1996.05.17  桑田佳祐40歳

37枚目のシングル

最初にこの曲を聴いた頃、実はどう解釈していいのかわからなかった。ふつうに楽しめる曲でもなかった。

しかし何度か聴いてるうちに、また何かのテレビ番組で鎌倉の寺でこの曲を演奏してるのを見て(建長寺かな?でも有名な2003年の建長寺ライブではない)、見方が変わってきた。

これ、と決めつけられない音楽ジャンルはソウル、ヒップホップからジャズや東南アジアの要素まで取り込み、多国籍というか無国籍。歌詞は鎌倉〜湘南を舞台に和の世界観を表現しながら、時空を超えていくような壮大さ、さらには人間の精神世界まで踏み込むような奥深さがある。また表現手法も斬新で、ラップと日本の民謡の合いの手「あ、ソーレ」を組み合わせてみたり、とにかくさまざまなもの、和も洋も伝統も先進もあらゆるものをとりこんで、まったく新しいものを誕生させようという意欲に満ち溢れた曲だということができる。ジャンルも国籍も、もしかすると音楽とか文学とか文化としてのジャンルも超えたポップアートとさえ言うことができるかもしれない。それほど斬新な曲だと思う。

実はこれに近い印象を抱いた曲がほかにもある。それは1984年の「ミス・ブランニュー・デイ」と2016年の「ヨシ子さん」。もちろん曲調や表現手法はまったく違うが、それぞれの時代で、その時代のものまたは自分の中にあるものを再生産していくだけでなく、異質と思われるものから新しいものを産み出そうとする姿勢、またそれが結実した事例として、桑田佳祐の「ポップ」がここに集約されていると言っていいのではないか?

桑田さんは確か著書「ロックの子」だったと思うが、「ディジーガレスピー(筆者注:ジャズトランペット奏者)のふくらんだほっぺた、王貞治一本足打法、あれをポップだと思わなきゃ。」と語っていた。要するに一見奇異に見えるようなものでも、それを突き詰めることで個性になり、そのオリジナリティがポップであり文化になる」と言いたかっただと思う。その点でこの曲は桑田さんの目指す「ポップ」を体現した曲なのではないかと思う。

ライブではもちろんしょっちゅう演奏されていて、ノリノリでも感動バラードでもないこの曲は常に独自の存在感や重みを放っている。