ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat.梅干し

2021.09.15リリース。

 2021年はいくつかの点で歴史に記憶されるべき年となるだろう。2020年に始まった新型コロナウィルスのパンデミックはいまだ終息の兆しを見せず、世の中のいろんなことを変えてしまった。仕事のしかた、娯楽、コミュニケーションまでも。今もまだ世界がどうなっていくのか予想がつかない不安な状態が続く。またコロナに翻弄され史上初めて1年延期され無観客という状況で行われたTOKYO2020オリンピック・パラリンピック。そして東日本大震災から10年という節目。

 桑田さん待望の新作は6曲入りのミニアルバム(EP)という形態となった。正直いつものようなフルボリュームのアルバムとして聴いてみたかった気もするが、この2021年というタイミングでリリースされた作品の意義をしっかり感じてみたい。

 多くの人が苦しみの中にいるこの状況で桑田佳祐が歌う歌はあくまでもポップで明るい。コロナ禍だからといって、いやだからこそ日常のどこかにありそうな感情やエピソードを切なく、優しく、明るく歌う。

 これまでのアルバムでは何曲かは社会のダークな部分を鋭く切り取ったり、ちょっと斜に構えて風刺的に歌うこともあったが、この「ごはんEP」では「悲しみ」「命がけ」「彷徨い」「心はどしゃぶり」といった今の世相を連想させるような言葉も並ぶが、桑田さんの視線はこんな時代だからあえて市井の人々の日常にやさしく注がれている。そしてそこにある悲しみや葛藤、ちょっとした幸せなど、心の揺れ動くさまを歌う。

 おそらくアルバムタイトルの「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し」も日本で最も当たり前な食卓のメニューにそんな日常の大切さを表現したのだろう。

 音楽のテイストとしては、ブラックミュージック、歌謡曲、洋楽オールディーズといった桑田さんの大好きな音楽をそれぞれオマージュしていてどれもザ・桑田佳祐という仕上がり。曲によっては桑田さんが多くの楽器を一人で演奏したホームレコーディング(これはポールマッカートニーの影響らしい)のようなものから、これからツアーに出かけるバンドと一緒に演奏したものまでさまざま。またついでながら、全6曲中3曲がCMタイアップ、1曲はTOKYO2020の民放共同応援ソングということでどれもシングルになりそうなほど華やか。またこれは意識してのことなのかどうかわからないが、今回の特徴のひとつは1曲が短いこと。6曲中3曲はなんと3分台だ。現在アメリカのヒットチャートをにぎわす曲の多くは3分台だったり下手すると2分台だったりと、1960年代のオールディーズソングみたいに短い曲が多い。それを意識しているのかどうかわからないが曲が短いのは悪いことじゃないように思う。

 桑田さんはよく、「ロックンロールは悲しみを大声で歌うことだ、と誰かが言った」と口にする。それはジョン・レノンだという説もあれば、そう言ってるけど実は桑田さん自身んの言葉だ、とかいろんな説があるけど、ここに並んでいる6曲は、2021年だからこそ生まれた珠玉のロックンロールであり、今を懸命に生きる人々へのラブレターと言えるだろう。