時代遅れのRock 'n' Roll Band|桑田佳祐 feat. 佐野元春,世良公則,Char,野口五郎

突然の発表、突然の配信。驚いた。たった1曲でこんなにいろんな感慨がうかぶ曲もめずらしい。でもいろいろ考えると、タイトルの「時代遅れのRock 'n' Roll Band」にすべて集約されているような気がする。

ちょっと自虐的に聞こえるけど、このタイトルには「誇り」「連帯」「友」「ポジティブ」「見果てぬ夢」などいろんな想いがこもっている。

この5人が同級生だとは知らなかった。野口五郎やCharはサザンよりも少し早いデビューで、先に活躍していたのでもっと年上だったと思っていた。

桑田さんはラジオ「やさしい夜遊び」でTraveling Wilburys(1980年代に活躍した覆面バンド。正体はジェフ・リン、トム・ペティジョージ・ハリスンボブ・ディランロイ・オービソン)を例に挙げていたけど、まさにそんな感じの「お友達感覚のバンド。」ここで重要なのは「同級生」というポイントだろう。それは歌詞や音作りにも表れている時代性もあるし、コラボするにあたって「同級生」という風にくくることによってほかのさまざまな制約やしがらみからフリーになれる、という側面もあったのでは?ちょっと疑問なのは大友康平が入っていないことだけど。

この曲を聴くと、「時代遅れ」いいじゃないか!と思わせてくれる。我々おじさんにとっての応援歌。

■「時代遅れ」の良さその1 音作り

おそらくこの曲は打ち込みはほとんどなしでレコーディングされたのではないか?Charのギターで始まるイントロ。印象的なアコースティックギター。男くさい、汗くさい、どこかアマチュアバンドのようなノリ。桑田さんは「同級生が集まって今でも音楽を楽しませてもらってます、という感じ」と話していたが、かなりの照れ隠しはあるにしても、まさに昭和のおっさんたちが集まって音楽を楽しんでいるのがよくわかる。

■「時代遅れ」の良さその2 メッセージ

歌詞を聴くと、明らかにウクライナ戦争を意識して時代を憂うメッセージであることがわかる。この時代、世代の人たちは、1960年代~1970年代の、ロックがまじめに時代と格闘していたころのミュージシャン(ビートルズボブ・ディラン等々)の影響をもろに受けているので、現代のような不安定な時代に声をあげずにいられないのではないか?今の若いミュージシャンにはもしかするとない感覚なのかもしれない。

でも桑田さんが紡ぐ言葉は、あくまでも政治的なメッセージというよりは、同じ時代を生きるひとりひとりに目をむけているのがよくわかる。

「子供の命を全力で守ること それが自由という名の誇りさ」

「悲しみの黒い雲が地球をおおうけど」

「力の弱いものが夢見ることさえ拒むというのか」

「この世に大切なひとりひとりがいて、歌えRock 'n' Roll Band」

■「時代遅れ」の良さ その3 Rock 'n' Roll

ロックンロールという言葉そのものが死語なのかもしれないけど、この言葉、そして音楽があったからこそ、この5人が発案からリリースまでわずか3ヶ月という超短期間でこの企画の実現にこぎつけられたのだろう。ロックンロールはこの世代にとって(この世代だけでなく、おそらく1950年代から1970年代くらいに生まれた人にとって)共通の言語であり、その言語で世の中にメッセージを発信するというのはごく自然なことなのだろう。

 

桑田さんがいつこの企画を思いついたのかははっきりわからないけど、2月に世良公則さんの自宅を訪れた時には8小節の簡単な曲を作っていたというから、なんらかTraveling Wilburys的なものを考えていたのだろう。ロシアのウクライナ侵攻は2月24日なので、この時点でそこまで曲のイメージができていたとは考えにくい。でもおそらくはコロナ禍とか、相次ぐ自然災害などで苦しむ日本のみんなを勇気づけられる曲を、という、この曲を貫くコンセプトはできていたのではないか?そして、佐野元春、Char、野口五郎にそれぞれ手紙を書き、訪ねていったというから、その行動力や熱意には驚くしかない。あの桑田佳祐が!

そうして実現したこの企画、誕生したこの曲は(自分のような桑田さんより6つ下も含めて)同世代には勇気と誇りを、若い世代には大いなる刺激を与える作品になった。

そりゃ、今ヒットチャートをにぎわす若いバンドのような勢いやセンスはないかもしれない。でも彼らから見たらへたすると祖父ちゃんかもしれないオッサンたちがこれだけの思いをもって活動していることは間違いなく刺激だろう。

 

桑田さんは2011年の東日本大地震の時には所属事務所アミューズをアーティストやタレントを集めて「チームアミューズ」で「Let’s try again 」を企画してのちに自分の作品としてリリースもした。あの時もそうだけど、社会の危機に対して仲間と一緒に立ち向かおうという意識があるのだろう。トラベリングウィルベリーズでもあり、日本版「We are the world 」でもある。

 

曲をじっくり聴いてみると、それぞれの個性がまた楽しい。

桑田さんは、もちろん作詞作曲を手がけている。歌においても一番目立ったいるのは桑田さんであることには違いないけど、他のメンバーへの配慮も感じられる。また、レコーディングは桑田さん立ち合いのもとに別々に行われたそうだが、となるとよくこれほど一体感のあるバンドサウンドにまとめ上げたなあと感じる。もちろんエンジニアなどの力も大きいのだろうけど、桑田さんのプロデュースの賜物だろう。

世良公則

1コーラスのボーカルを桑田さんに続いてとり、最初のサビの途中を歌っているが、昔の印象に比べると随分お行儀のいいボーカルでちょっと意外。その他コーラスや3声ギターに参加している。正直、一番印象が薄い。でもいい人なんだろうな、というのがわかる。

Char

2番のサビで「子供の命を全力で・・・」というフレーズを歌う。ソロ・ボーカルはそこだけだけど、これがビックリ。メチャ歌うまいやん。また、最初から最後までギターを弾きまくって、このサウンドがこの曲のイメージを決定づけている。なんかイメージ的に一番気難しい気がしたけど、よくこのプロジェクトに参加してくれました。ぜひソロ作品を聴いてみたい。

野口五郎

一番意表をつかれた名前がこの人。桑田さんと同級生というのもビックリだけど、この人実はすごいインストゥルメンタリスト(by桑田さん)なのだそう。間奏のギターもChar、世良公則と一緒に弾いてる。またボーカルがなんかロックしていて、昔の歌謡曲イメージと全然違うのが楽しい。申し訳ない言い方だけど、ご本人もこういうロック文脈の人たちと一緒にやれて嬉しいのではなかろうか?

佐野元春

個人的には、「桑田さんと佐野君のコラボ」というのは永遠の夢のような気がしていて、それが叶うなんてほんとに夢のよう。こんなことがあっていいのか?

サビの主旋律を桑田さんと2人で歌っている!また2番のボーカルは、ほんとに佐野君らしくて思わず微笑んでしまう。サビの歌詞に「Some day」が出てくのは、桑田さんは佐野さんを意識したわけじゃない、と言うが、無意識の意識があったのでは?

以前から桑田さんは、佐野君の(なぜか僕は桑田さんに対して佐野さんは『佐野君』と呼びたくなる)“La Vita e Bella”などをすごく評価していて「よくこの曲作ったよ!」と言っていた。同世代の中で、いまも変わらず精力的に活動を続ける佐野君へのリスペクトを公言してはばからない。昨日のラジオの中でも「明日は佐野さんは宮城(だったかな?)コンサートをやります。頑張ってください。と2回も言っていた。

最後のサビのリフレインで「闇を照らそう!」と歌う佐野元春は紛れもなくロックンロールの体現者だ!

 

日本のTravelling Wilburys、もしかすると日本の最後のロックンロールバンド!

素晴らしい曲を、パフォーマンスをありがとうございます!

MVも撮影するらしいので、楽しみです!