ステレオ太陽族/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

9. ステレオ太陽族

アルバムタイトル曲だけど、特にタイトルと曲の内容が関係あるとは思えない。

当時流行っていたブラックコンテンポラリーというか、レイ・パーカーJr.とかアダルトなソウルミュージックの路線を狙った曲。次作の『女流詩人の哀歌』とか『よどみ萎え枯れて舞え』とかにつながる系譜だと思う。

短いしフェイドイン・フェイドアウトだし、未完成の曲っぽいけど、なかなかいい感じだし、完成バージョンを聴いてみたい。

Let's Take A Chance/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

8. Let's Take A Chance

レゲエもデビュー以来追及し続けているジャンルで、『レゲエに首ったけ』『恋するマンスリーデイ』に続く3作目となる。もう少し言うと、『奥歯を食いしばれ』の最後にもなかなかシブいレゲエ・パートがあったけど。『マンスリーデイ』あたりまでは一生懸命本場のレゲエを模倣している感じだったけど、この曲あたりからはただの模倣ではなくてオリジナリティを出そうとしているのがわかる。

歌詞はこれもエロ・ソングの系統で、特に“I am sorrow.”“I am turn to show.”“I am OK.”と日本語の語感としては露骨なところを英語表記でぼかしているところが面白い。

ラッパとおじさん(Dear M.Y's Boogie)/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

7. ラッパとおじさん(Dear M.Y's Boogie)

発売当時のアナログ盤ではここからがB面。B面の1曲目はこういうノリのいい曲が来ることが多かった。

タイトルの通り、当時ブラスやストリングスのアレンジを担当していた八木正生さんを歌った曲。桑田さん作の全編英語詩。これもノリのいいロックンロールで、このアルバムにはなんといっても「My Foreplay Music」「Big Star Blues」そしてこの曲と、ノリノリの曲が3曲も入っているのだから強力!

当時のライブではこの3曲が連続して演奏されて(Foreplay~ラッパとおじさん~Big Starの順で)各曲ごとに会場がドッカンドッカンと爆発したように盛り上がるものだから、自分は勝手にこの3曲を「爆発トリオ」と呼んでいた。

コール&レスポンスもあり、スライドギターも冴えわたっていていて、もっとライブで演奏してほしいくらい。だけど、どうも桑田さんはある時期からこういう全編英語の作品を毛嫌いする傾向があるように思う。

我らパープー仲間/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

6. 我らパープー仲間

発表当時、この曲だけは意味がよくわからず、単なるナンセンスな曲としか思えなかったけど、比較的最近、たぶんここ5年くらい、ある日突然気づいた。これは「ミニー・ザ・ムーチャー」だ!

そう、あの♪ハイデハイデハイデホ~♪って歌うやつ。果たして、youtubeで探してみると、キャブ・キャロウェイが歌ってるのが、「パープー」のサビにそっくり

サビのコール&レスポンスは、最初はゴスペルかと思ったけどちょっと違ってた。でもこの曲は単なるナンセンスソングではなくて、ちゃんとブラックミュージックへのリスペクトが形になった曲だったというわけ。

81年のライブで、この曲を演奏する前に、サビのコール&レスポンスを一生懸命客席にレクチャーしていた桑田さんを思い出すとなんだか微笑ましい。

恋の女のストーリー/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

5. 恋の女のストーリー

この曲はちょっとジャズっぽいというか、R&Bというか、とにかくブラックミュージックの影響が色濃く見られるバラード。間奏から歌に戻るところで「Thank you」と語尾を上げて言うのはビリーホリデイの真似だそうな。

映画「モーニングムーンは粗雑に」挿入歌で、映画中で高木澪が歌っているらしいので、女性が歌うことを想定して作られたのだろう。歌詞は女性目線で書かれている。

とにかくシブいというかいい味を出していて、個人的なイメージとしては、夏の夜に海の家かどこかで、波の音を聴きながら一人で聴いてみたい。

84年のツアー「やっぱりアイツはクロだった!」ではこの曲から「涙のアベニュー」へとメドレーのようにつないで歌われて、超感動したのを覚えている。

ベスト盤とかには収録されていなくて、あまり注目される曲ではないけど、隠れた名曲と言っていい。

夜風のオン・ザ・ビーチ/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

4.夜風のオン・ザ・ビーチ

これはレイ・チャールズ!カッコいい!

この辺からの数曲がこのアルバムのブラックミュージックの影響を一番濃く感じさせるところ。レイ・チャールズはピアノを弾きながら歌うけど、この曲はギターの方が目立っていてちょっと違うんじゃないの?と言われそうだけど、個人的には、ギターのリフとか、サビでコーラスと絡むあたりとか、レイ・チャールズをメチャメチャ意識してる気がする。ただレイ・チャールズとかリスペクトする対象をまねするだけじゃなく、そこに自分たちのオリジナリティを加えていこうという姿勢がこのあたりから見られる。またそれは近年に至るまで、桑田さん/サザンの一貫した音楽づくりの基本姿勢であるように感じる。

タイトルが示す通り「夏の海」のイメージも強い曲だけど、明るいさわやかなイメージではなくて、どちらかというと暗くて人気のない海のイメージ。辻堂、えぼし岩という湘南の地名も出てくる。辻堂は他の曲には出てこないけど、えぼし岩はこれから始まって以後何度も桑田さんの歌詞に登場するようになり、一種のシンボル的な存在となる。どうでもいいけどこのブログのタイトルにも使わせていただいている。

また「まるでえぼし岩にいるような 揺れる彼女の胸にすがって」という歌詞があるけれど、えぼし岩って女性の乳房=女性の象徴みたいなイメージがあるのか?」このあたり、映画「茅ヶ崎物語」をもう一度見返してみよう。

素顔で踊らせて/サザン40周年記念勝手に全曲レビュー

3.素顔で踊らせて

2曲目の「My Foreplay Music」に続いて、一転してしっとりしたバラード。タイトルからはどうしてもビリージョエルの「素顔のままで~Just The Way You Are」を連想してしまうけど、あまり関係なさそう。

この曲は何といっても当時女性の生理用品のテレビCMにサビの部分が使われて、桑田さん自身が出演して『僕は男にも生理があるべきだと思います』とかなんとかいうコピーで話題になった。あんなにエロい歌詞の曲ばかり歌っている桑田さんがこんなCMに起用されるのは一見奇異な感じがするけれど、すでにこの頃にはデビュー当時の『目立ちたがりの芸人でーす』(←これは自分で発していたメッセージ)というイメージから完全に脱却して、実はやさしい男性なのだという評価が定着しはじめていたことを示すエピソードだと思う。

また歌詞の中に「2月26日にはささやかな二人だけのきずな」と自分の誕生日を歌いこんでいるけど、「2月26日」を『~ got to need you, rock ~』と英語風に歌っていて、この辺のセンスというか言語感覚というか、日本語を外国語みたいに聞かせる手法は天才的で、近年でも「マイ・フェラ・レディ」とか「パリの痴話喧嘩」あたりで存分に発揮されている。