【ネタばれ注意!】2021.10.7.広島グリーンアリーナ「KUWATA KEISUKE BIG MOUTH, NO GUTS!!」ライブレポート(1)

前代未聞のコロナ禍で、サザンも含め昨年から3度の無観客配信ライブを敢行した桑田さん。有料での配信ライブを行ったのも最初なら、ついにアリーナクラスの会場での全国ツアーに踏み切ったのも初めてだろう。

コロナ禍で全国のファンに元気を届けたい。

ライブがやりたくてうずうず。

全国のイベンターなど瀕死の業界を救いたい

業界をリードしたい。

いろんな思いがあってのことだろう。

正直、自分としてはこのツアー開催のニュースが入った8月頃は複雑な気持ちだった。

まだまだコロナ感染者は多く、自分は行きたくても周囲(家族や仕事関係者等)の理解は得られるのか?感染のリスクは?等々いろいろ考えて、いつもなら広島、福岡、等複数会場エントリーするところ、またいろいろ仲間を誘って参加するところ、今回は全く一人で、1公演のみ参加することに決めた。こんな複雑な思い、逡巡は初めてだったがこう感じた人は多かったのではないか。いつもなら一緒に行く仲間も今回は参加を断念という人が何人かいた。

そんな複雑な感情を抱えながらもやってきた2021年10月7日。コロナ感染者も急激に減少してきた。後年今の状況はどう評価されるのだろう?

おなじみの広島グリーンアリーナをたった一人で訪れる。席ごとに時間帯をわけた分散入場。電子チケット。席は、椅子はフルに置かれているもののグループごとにまとまって隣の席は空けた状態での配席でディスタンスを保つ。そんなコロナ対策でざっとキャパの7割くらいだろうか。

開園前に流れているのはなんとビバルディの「四季。」開園前クラシックは初めてかな?5分前からあおりの前説が流れ(ここでもステージへの声掛け禁止、歌唱禁止などが訴えられる)、開園時間の6:30ちょうどに場内暗転。一斉に総立ち。大きな手拍子。歓声はなし。

クラシックの流れか、まずは「威風堂々」が流れ始めてステージの映像に「BIG MOUTH, NO GUTS!」の文字が浮かぶ。ただここはツアービジュアルのかわいいナマケモノのイラストとかはなくて至極真面目で、濃いブルーのバックにシルバーのゴシック系の文字。

そしてメンバーが登場し、最後に桑田さん登場。エレキギターを鳴らして音色のチェック。どうやら桑田さんが弾いてる?ということは1曲目は何?と思ったら、

M1 それ行けベイビー!

ああ!これか~!だよね~!納得の選曲!「適当に手を抜いていこうな 真面目に好きなようにやんな」人の気持ちをほぐして、前向きにさせてくれる曲。ステージのスクリーンに、真っ黒いバックに手書きの歌詞が映し出される。しかも書き順の通りに文字が描かれていく。ちゃんとアニメになってる。と変なところに感動。そして3番からはバンドが入って迫力増大!このアレンジは初めてだろう。

M2 君への手紙

この頭の2曲にははっきりしたメッセージ性が感じられる。コロナ禍でいろんな苦悩、ストレスを抱える人に寄り添い勇気づける。いろんな思いを抱えてここへ集まった人たちもこの2曲ですっと気持ちが楽になったり、魂をほぐされたりした気がしたのではないか。自分もこの曲の歌いだしのあたりで早くも落涙。

ステージ上にはミラーボールが現れて会場に光を振りまいていた。

この曲が終わると、まさに聖歌隊のようなアカペラ・コーラスが。そして腕に巻いたリストバンドがろうそくの炎のようにオレンジ色に点灯。あ、あの曲だ~。そのあとはリストバンドのLEDは白に変わり、コーラスはビーチボーイズみたいに。そしてイントロ。

M3 炎の聖歌隊~CHOIR

この曲の3曲目は予想通り!3曲目はいつもガーンと盛り上がる曲がくる。このツアーのために作られたようなこの曲はここ以外には考えられない!

♪開演おまちどおさん

♪ご来場大変ご足労さん

♪毎日お疲れさん

♪ようこそここへ

この曲のこのフレーズが聴きたくてここへやってきたといっても過言ではない。コロナ禍だから価値があるこのフレーズ。コロナ禍だから、ライブがこれほど貴重なものだと感じられるから。この曲は個人的には今年だけでなくこれからもずっとすごく大切な曲になりそうな予感がする。その思いがこの日の盛り上がりを経験していっそう強くなった。映像はここで初めてステージの桑田さんが映し出され、ステージバック全体を使ったワイドな画面で海や空の華やかな映像演出がいっそう盛り上げていた。最高!今思い出してもこの曲が一番良かったかな~?

「夜遊び」のお留守番DJで原坊が「ある初演の曲で、初めてなのにお客さんの振りが揃っていてびっくり!」みたいなことを言ってたけど、それはこの曲の「見えないジョッキで乾杯だ!」で乾杯する様にみんなが腕を突き上げるポーズのことを言ってるのだろう。別に示し合わせたわけでもなく、あそこでは自然にああなっていく。そういうのが楽しい。

 

ここで最初のMC。4年ぶりの広島グリーンアリーナ。でもいつもの「スタンド~!アリーナ!」を忘れていた。それを途中で思いだして照れながらそれさえもネタにして笑いを誘う。

個人的にはこのライブはもっとおとなしい展開になるのかと思っていたけど、予想以上にいつも通りの演奏、選曲、MCだったように思う。そして「次の曲は『男たちの挽歌と書いてエレジー』と紹介。」

 

M4 男達の挽歌(エレジー

この選曲はちょっとびっくり。前回のソロ・ツアー2017年の「がらくた」ツアーの2曲めだったが、どちらかというとメジャーではない曲。でもそれ以来めっちゃ好きになった曲なので嬉しかった。メンバーは事前に聞いてはいたがほぼいつもの布陣。違うのはドラムが違うのとギターに中シゲヲが加わっていること、コーラスにタイガーだけでなくユッキーこと田中雪江さん(?)が加わっている。この曲はソウルフルな女性コーラスが特徴だけど、そこはこの2人、バッチリ決めていた。

M5 本当は怖い愛とロマンス

おなじみのシングルヒット。和服を着たダンサー登場。良質なポップソング。

M6 若い広場

シングルヒットの連発ですっかり会場はリラックス。スクリーンにかわいい、けど大きいひよこのアニメが出てきた。オープニング3曲でこのライブの趣旨を伝え、ドーンと盛り上げて、このパートはとにかくリラックス。今日のライブはこんな風に進んでい行くよ~という宣言のような。

ここで短いMCが入って、この日のために作ってきた曲がある、とか言って始まったのが

M7 大阪レディブルース~広島版

2011年の宮城ライブではこの曲を東北バージョンにして歌ってたけど、全国でこれをやるのは初めてか?カープサンフレッチェのことを入れたり、岸田自民党新総裁のことを歌ったり世界中が好きさ、というところではなんか原爆ドームが出てきた?

これも桑田さんの心が現れた名演だった。

M8 なんか夕焼けのような街並みがアニメであらわれ、「遠い街角」かと思ったら「金目鯛の煮付け

このパートはさしずめ「リラックスコーナー」だろうか。そこにこの曲はピッタリ。なんか地味な曲だと最初は思ったけど、こんな日常の価値を表現できた曲があったかなって思うと、この曲の偉大さがわかる。

M9 ここはまた一気に展開が変わり、なんと「エロスで殺して~ROCK ON」ここで確かダンサー登場。この曲はまた久しぶり!ていうか、94年の「さのさのさ」ツアー以来では?

M10 さすらいのライダー

最新の「ごはんEP」からの曲。ソウルフルな重いリズムが素晴らしい曲だけど、ライブで聴くとこの低音がズンズン響いて最高。ここまで展開が目まぐるしく変わり飽きさせない。次は何が来るのか?と楽しみになる。

M11 月光の聖者達

映画の主題歌になって再び注目を集める曲。演奏に厚みと迫力があって素晴らしい。ここが前半のクライマックスだったと言っていいだろう。「今はどんなにやらせなくても明日は今日より素晴らしい」という歌詞が、今を生きる人々に希望を与える。

 

ここでいつものようにメンバー紹介。最近よくやるけど、アドリブのソロ回しをしながら次々に紹介していく。今回はドラマがいつもの河村カースケさんじゃないこととギターに中シゲヲさんが入ってるところがいつもと違う。でも桑田さんはいろんなところで今回のバンド、メンバーは最高だと口にしている。ここでも「このメンバーの素晴らしい演奏をお楽しみください」的なことを言っていた。

またここのMCだったか定かてないけど、「みんなここへ来るのにもいろんな迷いや不安があったと思います。そんな中来てくれてありがとう。」と言っていた。ああ桑田さんもファンの気持ちをわかってくれてるんだなと感動を覚えた。

 

そして次のコーナーへ。

「こんなご時世、みんな明るい曲が聴きたいと思うんだけど、敢えて暗い曲をやります。自分史上一番暗い曲です。」と紹介して次の曲が始まった。」

【ネタばれ注意!】KUWATA KEISUKE LIVE TOUR 2021 BIG MOUTH, NO GUTS!! 2021.10.07.広島グリーンアリーナ・セットリスト

1. それいけベイビー
2. 君への手紙
3. 炎の聖歌隊choir
MC
4. 男達の挽歌
5. 本当は怖い愛とロマンス
6. 若い広場
7. 大阪レディブルース替え歌広島バージョン
8. 金目鯛の煮付け
9. エロスで殺して
10. さすらいのライダー
11. 月光の聖者達
メンバー紹介
12. どん底のブルース 替え歌2021
13. 東京
14. 鬼灯
15. 遠い街角
16. SMILE 晴れ渡る空のように
17. Soul コブラツイスト~魂の悶絶
18. Yin Yang
19. 大河の一滴
20. スキップビート
21. 悲しい気持ち
アンコール
22. 明日へのマーチ
23. 悲しきプロボウラー
24. 愛の奇跡(ヒデとロザンナ)
25. 波乗りジョニー
26. 祭りのあと

炎の聖歌隊~Choir~

個人的には今年発表された5曲の中で最大のヒット!

ビーチボーイズのようなコーラス

ロネッツ(とそれを真似するビリージョエル)みたいなコーラス

「ラジオスターの悲劇」みたいな(桑田さんはELOと言った)ラジオボイス

フィルスペクターのウォールオブサウンドを彷彿させるアレンジ

桑田さんが多大なる影響を受けたであろう(そして僕たちが大好きな)60年代ポップスのエッセンスがたっぷり詰まっている!思わずにやりとするようなフレーズがいっぱい。

そして、この歌詞!

全編ライブの開幕を意識したフレーズは、どれほど桑田さんが観客を前にしたライブを渇望していたかがよくわかる気がする。また、桑田さんが目の前にいるライブを僕たちファンがどれだけ渇望していたか、を桑田さんはよく知っている。

♪開演お待ちどおさん

♪来場ご足労さん

♪毎日お疲れさん

この絶妙なサビの韻の踏み方に泣けるような意味を重ねているフレーズは最高。秀逸。

ライブで盛り上がるのはもちろんだけど、日常のさまざまな場面でもこの曲は僕たちを元気づけてくれそうだ!最高!

それにもうひとつ。最近の海外のヒット曲は60年代のそれのように短くて3分台が多い。この曲はそれを意識したのかどうかは知らないが3分台と短いのがいい!

金目鯛の煮付け

もしかすると、今年2021年のアルバム「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し」の着想はこの曲から始まった?と思わせる。

最初に聴いた時は「なんか地味な曲」という印象だったけど、聴けば聴くほど、古いフォークのテイストに桑田さんなりのロック魂をふりかけてみた、というメロディやアレンジがいい。原由子さんが話していたけど、この曲は2020年夏ごろに桑田さんがよく見ていた「深夜食堂」という番組のテーマに使われていた鈴木常吉さんの「おもひで」という曲からインスパイアされたものだとか。確かに鈴木常吉さんの歌い方をかなり意識しているようだ。

タイトルも、歌詞の内容も何気ない日常の大切さやいつもそばにいる人達の大切さをを改めて再認識させてくれる。この曲がCMタイアップで使用されていたSOMPOのTVCMもそんなテーマだった。この曲が制作されたころはまさにコロナ禍最初の緊急事態宣言のころ。そんなささくれだった世間に、こんな何気ない日常、金目鯛の煮付けが安心して食べられる価値をさりげなく訴えているようだ。

今の時代にとっても大事な曲。地味だなんて言ってごめんなさい。桑田さん。

SMILE~晴れ渡る空のように~(2)

この曲については2020年1月に発表された時に一度書いた。

当時は新型コロナウィルスというワードが本格的に騒がれ始めた頃で、まだ誰もTOKYO2020オリンピック/パラリンピックが延期になるとか、世界中がこれほどこのウィルスに翻弄されるとは考えていなかっただろう。おそらくこの曲は当初の予定では2020年7月のオリンピック開幕に合わせて大きな話題性と祝祭感のに包まれながらリリースされて、この年を代表するヒット曲になる、という計画が描かれていたのではないかと推測するけど、またもしかしてそれらに合わせて桑田さんの活動も、ライブやオリンピック関連を含めていろいろと計画されていたのだろうと思うけど、それらはすべて吹っ飛んでしまった。延期が決まってからはこの曲がメディアでオンエアされる機会もほとんどなくなってしまった。それどころかオリンピック/パラリンピック自体、中止論議がかまびすしい。発表時の称賛も一時ぱたりと止まり、まるでこの曲は世間から消えてしまったようだった。

ただ桑田さん本人だけは、この曲を「やさしい夜遊び」で毎週のようにかけ続け、「いつかこの曲をみなさんの前で歌える日が来るといいなと思います」と発信しつづけた。

2021年になり、喧々諤々の論争のなかTOKYO2020は開催。それとともにこの曲も連日民放各局の番組で流れまくった。でもこの曲の価値はオリンピック/パラリンピックの応援ソングというだけではなくなっていた。

♪永きこの地球の歴史のひと幕に立ち会うことを奇跡と呼ぶのだろう

♪情熱を消さないで歩みを止めないで この世に生まれた以上

♪愛情に満ちた魔法も悪戯な運命(さだめ)にも 心折れないで

♪世の中は今日この時も悲しみの声がする

これらのフレーズは、オリンピック/パラリンピックの応援という意味を超えて、コロナ禍にあえぐ日本人へのメッセージとなった。

原由子さんは「やさしい夜遊び」のお留守番DJとして、この曲について「栄光に満ちた者の陰で夢追う人たちがいる いつもそばにいて共にゴール目指してその命燃やしてるんだ」という歌詞を挙げて、桑田さん(原さんによると「けいちゃん」)のこの視点にぐっとくる、いつも泣けてくる、と話していた。「心折れないで でなきゃモテないじゃん!がけいちゃんらしい」とも。またビクターの小野さんはオリンピックの応援歌なのに悲しみを歌っているのがすごいと評価していた。

2021年3月にBLUENOTE TOKYOで行われた配信ライブで、なんとこの曲をアコースティックセットで演奏。ここでの厚みのある演奏の素晴らしさにびっくり。生演奏でこの曲を聴ける幸せに浸ることができた。桑田さんが言う「この曲を早くみんなの前で歌いたい」の意味が分かった?演奏者はもちろんスタッフも一つになったような一体感はこの曲ならではないだろうか。観客のいるライブだったらどうなるのか?

いよいよ「BIG MOUTH, NO GUTS」ツアーでこの曲がファンの前で演奏される!

おそらく桑田さんが作った数多くの曲の中でも指折りの名曲として後世語り継がれるだろう。

 

さすらいのRIDER

ネヴィルブラザースを思い出させるような重いリズムのソウル・ミュージック。タメの効いたリズムがなんとも心地よい。

2017年の「がらくた」に収録されている「愛のささくれ」にも通じる。このアルバムに入っている曲は、桑田さんと片山敦夫さんとで主要な楽器、パートをすべて演奏していてあとはコンピュータの打ち込みによる曲と、バンドで演奏されている曲に大別されるが、この曲は後者。桑田さんにとってはこういうバンドでのレコーディングというのはおそらくは2019年のサザンでの「愛はスローにちょっとずつ」以来の久しぶりのものだったはずで、新鮮だったのではなかろうか。

またこの曲の重いリズムとマイナーなメロディは男女の刹那な関係を描いた歌詞の世界観ともマッチして独特な魅力を出している。2011年のアルバム「MUSICMAN」に入っていて今年のBLUENOTE TOKYOの配信ライブでも演奏された「SO WHAT?」にも通じるやるせない男女のちょっと危ない関係。でもちょっと憧れてしまうのはなぜ?

Soulコブラツイスト~魂の悶絶

「ロックンロールとは悲しみを大声で歌うことだ」と誰かが言った。と桑田さんはよく口にする。その「誰か」とははっきり言わないが、ネット界隈ではジョン・レノンではないか、とかそうやってぼかしながら実は桑田さんが言ってるのではないか、などの説がある。

 この曲はベースには「耐えらないほどの悲しみや苦しみ」を「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と秀逸な表現で表しているけど、“I can't get you out of my mind!”とシャウトするところなど、まさに冒頭の定義に当てはまる。この曲も偉大なるロックンロールだということだろう。

 インパクトのあるイントロはよく昭和歌謡へのオマージュだと言われる。尾崎紀世彦という具体的な名前があがることも。MVが尾崎紀世彦さんが日本レコード大賞を受賞した「第13回」の「輝く!日本年末音楽大賞」だったりするのもそう。でも個人的には尾崎紀世彦さんへのオマージュという点では「ダーリン」の方がよほど近いし、こちらはもっと洋楽の「ソウル」よりだという気がする。また間奏のブルースハープなどはロック全開。

 またこの曲はUNIQLOのCMでも使われたことも話題になったけど、ここで流れるイメージはジーンズというCMの題材や綾瀬はるかさんという出演者のイメージにも引っ張られて、この曲のイメージを驚くほど変えたような気がする。ここで流れるこの曲は同じ曲なのによりさわやかで明るいイメージに聞こえるからびっくり。

 「魂が悶絶」するほど辛い思いをしながら、♪それでも明日はやってくるんだろう~と前を向こうとするのも、コロナ禍でなんとか前に進もうというメッセージのような気がして、そこもロックンロールだな~と思う。

いつかまたカラオケが楽しめるようになったら、こころおきなく大声でこの曲を歌ってみたい。